3本目の会議に入ったところで、1本目で何を決めたかがもう出てこない。前の会議が終わった10秒後に次のリンクを踏んでいるので、整理する時間もない。夕方には、断片的なメモと「何か決まった気がする」という感覚だけが残っている。
この記事には、速くメモを取るコツは書きません。略記も単語登録も、この状況では効きません。
メモが追いつかないのは、書く速度の問題ではない
書く時間ではなく、整える時間がゼロになっている
会議中に取ったメモは、そのままでは使えません。走り書きの断片が並んでいるだけで、決定事項がどれで、誰の宿題がどれかは分かれていない。あとで読み返すと、何のことか自分でも分からない行が混ざっています。
使える記録にするには、会議のあとで整える工程が要ります。数分でいい。ただしその数分を置く場所が、30分刻みのカレンダーには存在しません。
つまり問題は、書く行為ではなく、書いたものを処理する時間の不在です。
聞くことと書くことは、同時にはできない
もうひとつ、構造的な問題があります。
議論を追いながら書こうとすると、書いている数秒のあいだの発言が抜けます。抜けたところを埋めようとすると、今度は次の発言を聞き逃す。逆に議論に集中すれば、手は止まります。
3本目で思い出せなくなるのは、能力の問題ではない
連続した会議で記憶が曖昧になることには、実験による裏づけがあります。
結果は次のとおりでした。
- 連続条件では、ストレスに関連するベータ波の平均活動が、会議が進むにつれて増加した。つまりストレスが蓄積した
- 休憩を挟んだ条件では、休憩中にベータ波の活動が下がって「リセット」が起き、4本を通じて平均レベルが横ばいに保たれた
- 連続条件では、前頭部アルファ波の非対称性(frontal alpha asymmetry)が負の値になった。これはエンゲージメントの低下と結びつく状態とされる。休憩を挟んだ条件では正の値だった
よくある対処が効かない理由
| よくある対処 | 効かない理由 |
|---|---|
| メモを速く取れるようになる | 議論を追う余力が減るだけで、整える時間は生まれない |
| 会議中は何も書かず、あとでまとめて書く | 3本目以降は記憶が薄れており、書けるだけの材料が残っていない |
| 録音だけしておく | 音声を聞き直す時間が、そもそも空いていない |
| 議事録係を決める | 情報共有型の会議では、参加者全員が当事者。誰かに押し付けても自分の記録にはならない |
いちばん下の行が見落とされがちです。書記を立てても、自分が引き受けた宿題や、自分だけが気づいた懸念は、自分の記録にしか残りません。
会議中に書くのをやめる
前提を入れ替える
発言の記録は、機械のほうが正確です。話者を識別して全文を残し、要約まで作れます。人間がやるべきなのは、その場で判断すること、相手の反応を見ること、決めるべきことを決めること。手を止めるのは、そこに時間を戻すためです。
会議中に手を動かすのは2種類だけにする
とはいえ、まったく何も書かないと落ち着かないという人は多いはずです。書く対象を2つに限定します。
「これ、こちらで確認します」と言った瞬間に、1行だけ書きます。これは記録ではなくタスクなので、あとから録画を見て拾うより、その場で書いたほうが早い。
相手の認識が自分と食い違っていそうな箇所です。これは書くというより、書いた瞬間にその場で聞き返すためのメモです。会議が終わってから気づいても遅い。
この2つ以外は書きません。発言の要旨も、背景説明も、数字も、書かない。
| 会議中に書くもの | 会議中に書かないもの |
|---|---|
| 自分が引き受けたタスク | 発言の要旨 |
| 相手との認識のズレ | 決定事項(あとで議事録から拾える) |
| その場で聞き返したい疑問 | 背景説明・数字・固有名詞 |
決定事項を書かないことに抵抗があるかもしれませんが、決定事項こそAIが最も正確に拾う項目です。人間が手で書くと、決まった瞬間の言い回しが落ちて「◯◯を進める」だけが残り、条件が消えます。
残りは録画に任せる
会議を録画しておけば、発言はすべて残ります。そこからAIが議事録を作れば、決定事項とタスクは自動で並びます。
会議中に手を動かさないぶん、議論には最初から最後まで参加できます。書く作業は会議の外に出た、というだけのことです。
会議と会議の間に10分を作る
書く作業を外に出したら、次はそれを置く場所を作ります。
10分は「休憩」ではなく「処理」の時間
Microsoftの実験で示されたのは、10分の間を空けるとストレスの蓄積が止まり、次の会議に入るときの状態が変わるということでした。この10分は、休むためだけの時間ではありません。前の会議の処理を終わらせる時間としても使えます。
カレンダーの設定で、30分の会議を25分に、60分の会議を50分に自動短縮できます。GoogleカレンダーもOutlookも標準機能として持っています。まずそこから始めるのが現実的です。
10分でやること
配分の目安です。
| 時間 | やること |
|---|---|
| 最初の3分 | AI議事録の「決定事項」と「タスク」だけに目を通す。本文は読まない |
| 次の4分 | 自分の担当分をタスク管理ツールやカレンダーに移す。関係者への共有が必要なら送る |
| 最後の3分 | 次の会議の資料とアジェンダを開く。何を決めに行くのかを1行で確認する |
10分が取れない日の代替
現実には、10分を空けられない日があります。相手が指定してきた時間に合わせる会議が続く日は特にそうです。
翌日に持ち越すと、記憶の助けがない状態で議事録を読むことになります。そうなると録画を見返さないと判断できない項目が出てきて、15分では終わらなくなる。当日中なら、議事録を見た瞬間に「ああ、あの話か」と戻せます。
一日の時間割の例
会議が6本ある日の形です。
| 時刻 | 内容 |
|---|---|
| 10:00-10:25 | 会議1(25分に短縮) |
| 10:25-10:35 | 処理10分 |
| 10:35-11:00 | 会議2 |
| 11:00-11:10 | 処理10分 |
| 11:10-11:35 | 会議3 |
| 11:35-13:00 | 昼。ここで午前3本分の残りを片付ける |
| 13:00-16:00 | 会議4〜6(同様に25分+10分) |
| 17:45-18:00 | 終業前15分。処理しきれなかったぶんと、翌日の準備 |
会議の本数は変わっていません。変わったのは、会議のあとに毎回10分あることだけです。
録る手段は、連続会議では「毎回同じ手順」であることが効く
ここまでの運用は、すべての会議が同じように録れることを前提にしています。実はここが一番崩れやすい。
会議ごとに条件が変わると運用が続かない
一日の中に、社内の定例、顧客主催の打ち合わせ、1on1、外部パートナーとの会議が混在します。ホスト権限があるものとないもの、会議ツールが違うもの、録画機能が有効になっていないもの。
「この会議は録れる、これは録れない」を毎回判断していると、判断そのものが負荷になって、2週間で運用が止まります。連続会議の日ほど、判断を減らすことが効きます。
ボットを入れる方式の摩擦
AI議事録サービスの多くは、専用のボットを会議に参加させて録音します。精度は高いのですが、連続会議では別のコストが積み上がります。
参加者一覧に自社の人間ではない名前が並ぶため、社外の相手から「これは何ですか」と聞かれます。1日1回なら説明すればいい。6本の会議のうち4本が社外なら、4回説明することになります。相手の会社が外部サービスへのデータ送信に厳しければ、そこで止まる会議も出てきます。
自分の端末で録る方式
会議ツールの録画機能でもボットでもなく、自分のPCの画面を録画してしまう方法があります。この方式なら、会議の種類に関係なく手順が同じです。ホスト権限も不要で、参加者も増えません。
連続会議で回すという観点で関係するのは次の点です。
- 録画は無料で時間無制限。会議が何本続いても、透かしも切れる心配もありません
- 仮想オーディオの設定が不要。BlackHoleなどを入れなくても、相手の声(システム音声)と自分の声を一緒に録れます
- ホスト権限に関係なく録画できる。顧客主催の打ち合わせでも同じ手順で済みます
- 録画からAI議事録を自動生成(Proプラン)。話者を識別し、決定事項とタスクを整理した形で出力します
- Notion連携(Proプラン)。議事録を会議ごとにデータベースへ送れるので、10分の処理時間に開く場所が1か所に決まります
録るかどうかを迷わないための基準
判断を減らすために、対象を先に決めておきます。
- 全部録る: 判断がゼロになるので運用としては最も強い。ただし人事評価や懲戒に関する面談は必ず除外する
- 種類で決める: 「社外との打ち合わせと、決定を伴う社内会議は録る。雑談や進捗共有だけの場は録らない」など
どちらでも構いませんが、その場で考えるのだけは避けてください。
なお、録画するときは相手に伝えてください。冒頭の一言で足ります。
「議事録を正確に残したいので、録画させていただいてもよろしいでしょうか。社内の記録用にのみ使用します」
録画が「見ない資産」にならないようにする
録画を始めた人がその後つまずくのは、たいていここです。
見返す前提にしない
録画を見返すのは例外だと考えてください。通常運転では、AI議事録の決定事項とタスクを読むだけで終わりです。
見返すのは、認識の食い違いが発覚したとき、決定の経緯を確認する必要が出たとき、あとから参加した人に背景を渡すとき。月に数回あるかどうかです。「見返さないと意味がない」と思うと、録画そのものが負担になります。
探せる場所に置く
会議ごとにファイルが散らばっていると、必要になったときに見つかりません。「先週の、あの案件の打ち合わせ」を探すのに5分かかったら、その時点で使われなくなります。
10分の処理時間に開く場所が1か所に決まっていることが、続けるための条件です。
消す基準を決める
録画データは容量を食います。全部残す前提だと、そのうち保存先の管理が別の仕事になります。
- 議事録が確定した時点で録画は削除する
- または保存期間を3か月と決めて、それを過ぎたものは消す
議事録テキストは残し、映像は消す。これで大半のケースは足ります。
よくある質問
全部の会議を録画するべきですか
判断を減らすという意味では、全部録るのが最も強い運用です。ただし人事評価や懲戒に関わる面談は除外してください。また、社内ルールで録音・録画が制限されている場合があるので、就業規則は先に確認することをおすすめします。
録画したのに、結局見返しません
見返さなくて構いません。この記事の運用は、録画を見返すことを前提にしていません。読むのはAI議事録の決定事項とタスクだけで、映像は「必要になったときに戻れる場所」として置いておくものです。
対面の会議はどうすればいいですか
Macを持ち込んでいるなら、音声のみの録音でも同じ運用が回ります。画面がないぶん情報は減りますが、決定事項とタスクを拾うには足ります。ホワイトボードを使った場合は、終了時に写真を1枚撮って議事録に添付しておくと後から読めます。
会議中にまったく書かないと、参加していないように見えませんか
これは実際に起きます。オンライン会議でカメラをオンにしていると、手が止まっている状態は伝わります。対処としては、会議の冒頭で「録画してあとで議事録にするので、こちらは聞くことに集中します」と一言伝えるのが有効です。むしろ話を聞いている姿勢として受け取られることのほうが多いはずです。
10分の空きを作る許可がチームから得られません
まずカレンダーの自動短縮(30分→25分)だけ試してください。会議の総量は変わらないので、反対が出にくい変更です。効果を実感してからチームに広げるほうが早く、Microsoftの脳波研究は説得の材料として使えます。
まとめ
連続する会議でメモが追いつかない状況について、整理します。
- 原因は書く速度ではなくスケジュール構造。書いたものを整える時間がゼロになっている
- 3本目以降で記憶が曖昧になるのは能力の問題ではない。間を空けずに会議を並べればそうなる(Microsoftの脳波研究)
- 会議中に書くのは「自分が引き受けたこと」と「認識のズレ」の2つだけ。発言の記録は機械に任せる
- 会議のあとに10分、取れない日は終業前に15分。読むのは決定事項とタスクだけ
- 録る手段は、会議の種類が変わっても毎回同じ手順であることが続く条件
明日のカレンダーを開いて、30分の会議を25分に変えるところから始めてみてください。空いた10分に何を置くかが決まっていれば、その日のうちに記録が終わります。





