会議を録画して、議事録の作成を自動化したい。仕組みとしては用意できるし、現場も楽になる。それでも提案に踏み切れないのは、部長会で「それ、法的に大丈夫なの」と聞かれたときに、自信を持って答えられないからではないでしょうか。
調べても出てくるのは、パワハラや不当解雇の証拠として隠し録音する話ばかりです。こちらがやりたいのは、そういう話ではありません。
なお、この記事は一般的な情報の整理であり、法的な助言ではありません。個別の事案については弁護士にご相談ください。
自分が参加している会議を録ること自体は、原則として違法にならない
当事者が録るのと、第三者が盗み聞きするのは別の話
自分が参加している会議を自分で録る行為(当事者録音、秘密録音と呼ばれます)は、これとは性質が違います。刑事事件についてですが、最高裁 平成12年7月12日判決は、相手方の同意を得ないで行われた録音であっても違法ではなく、その録音テープの証拠能力は否定されないとしています。
つまり、会議に参加している人が手元で録ること自体を、直ちに犯罪と評価する法律は日本にはありません。
ただし「違法ではない」と「やっていい」は別
ここで話を終わらせている解説記事は多いのですが、実務ではその先が問題になります。
無断録音が民事上のトラブルになった例はあります。大分地裁 昭和46年11月8日判決は、特別の事情がない限り無断録音は相手の人格権を侵害するもので違法だとしました。東京高裁 昭和52年7月15日判決も、無断録音が相手の人格権の侵害となり得ることは明らかだと述べています。
刑事罰の対象にならないことと、相手から損害賠償を請求される可能性がないことは、まったく別の話です。さらに実務では、社内規程に違反していないか、相手との信頼関係を損なわないか、という問題が重なります。
録音していることを伝える法的義務はあるか
ここは正確に押さえておく価値があります。監督官庁である個人情報保護委員会が、公式FAQで見解を示しています。
通話内容から特定の個人を識別することが可能な場合には個人情報に該当します。
(個人情報に該当する場合、事業者は利用目的の通知・公表義務を負うが)録音していることについて伝える義務までは負いません。
個人情報保護委員会「よくある質問」Q1-10(令和4年4月更新)
混同されやすい4つの論点を分けて考える
会議の録音をめぐる議論が噛み合わなくなるのは、性質の違う話が同じ「大丈夫かどうか」に押し込められているからです。
| 論点 | 問われること | 会議を自分で録る場合の結論 |
|---|---|---|
| 刑事上の適法性 | 犯罪にあたるか | 当事者による録音は原則あたらない |
| 民事上のリスク | 損害賠償を請求され得るか | 態様によっては人格権侵害となり得る |
| 個人情報保護法上の義務 | 何を通知・公表すべきか | 利用目的の通知・公表義務はある。録音の事実を告げる義務はない |
| 社内規程・ビジネスマナー | 社内で許されるか、相手との関係を損なわないか | ここが実務上いちばん問題になる |
裁判の証拠として使えるかどうかも、これらとは別の論点です。民事訴訟では証拠能力に厳格な制限がないため、無断録音であっても証拠として採用されることが多いとされます。ただし東京高裁 平成28年5月19日判決は、諸般の事情を総合考慮して訴訟上の信義則に反すると言える場合には、例外的に証拠能力を認めないとしました。この事案では、大学のハラスメント防止委員会の審議を無断で録音したことについて違法性が高いと判断されています。
オンライン会議の「録画」は、音声の「録音」より論点が多い
ここまでは録音の話でした。オンライン会議を画面ごと録画する場合、考えることが増えます。
映像には音声以外のものが入る
録画データに含まれるのは、発言だけではありません。
- 参加者の顔(カメラをオンにしている場合)
- 共有された資料(相手が画面共有したスライドや帳票)
- チャット欄のやり取り
- 参加者名とメールアドレスの一部
資料が映り込むときに気をつけること
実務的な対処は難しくありません。
- 相手が「これは社外秘なので」と言って共有した画面は、その間だけ録画を止める
- 録画後に該当箇所を確認し、必要ならその部分を削除する
- そもそも資料は後で正式に受け取り、録画は会話の記録として扱う
3つ目が一番きれいです。録画は「何を話したか」を残すためのもの、と役割を限定しておけば、資料の扱いで悩む場面が減ります。
議事録・文字起こしにすると性質が変わる
動画ファイルは重くて共有しにくいので、結果的に共有範囲が狭く保たれます。テキストになった瞬間、コピーして貼れば誰にでも渡せます。録画そのものより、議事録のほうが広がりやすい。共有範囲の設計はここで必要になります。
| 記録の形 | 含まれる情報 | 注意点 |
|---|---|---|
| 音声のみの録音 | 発言 | 論点が少なく扱いやすい |
| 画面録画 | 発言+顔+共有資料+チャット | 相手の資料が残る。保存先の管理が必要 |
| AI議事録・文字起こし | 発言の要約と全文テキスト | 検索でき、共有が容易。範囲の設計が必須 |
社内会議:まず就業規則と施設管理権を確認する
「社外の商談は気を使うけれど、社内会議なら自由に録っていい」と考えたくなりますが、社内には社内の論点があります。
会社には職場内の録音を禁止する権限があるとされている
そのうえで、会社が録音禁止を通知しているにもかかわらず従業員が録音を続けた場合、指揮命令権・施設管理権に違反するものとして懲戒処分の対象になり得るとされます。東京地裁立川支部 平成30年3月28日判決(労働経済判例速報2363号9頁)では、録音禁止の命令に従わない勤務態度が、普通解雇の理由のひとつとして評価されました。
個人で始めず、チームのルールとして始める
議事録の自動化を提案するなら、次の4点をセットで決めてしまうほうが通りやすくなります。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 何を録るか | 定例会議と、参加者が事前に合意した会議のみ。人事評価や懲戒に関する面談は対象外 |
| 誰が録るか | 会議の主催者。参加者が個別に録ることは認めない |
| どこに保存するか | 指定のクラウド領域またはNotionのデータベース。個人PCへの保存は禁止 |
| いつ消すか | 議事録を作成・確認した時点で録画は削除、または保存期間を3か月とする |
この4点が決まっていると、「勝手に録っている人がいる」という状態を避けられます。反対する人がいたとして、その反対はたいてい「録画そのもの」ではなく「誰がどこまで見るのか分からないこと」に向いています。
参加者への伝え方(社内版)
会議の招集時に一文添えるだけで足ります。
「本会議は議事録作成のため録画します。録画データは共有ドライブの議事録フォルダに保存し、議事録の確定後に削除します。人事評価には使用しません」
最後の一文が効きます。録画運用への反発のかなりの部分は、評価に使われるのではないかという懸念から来ています。使わないなら、はっきり言っておくほうがいい。
反対が出た場合の落としどころも用意しておきます。特定の議題だけ録画を止める、録画は残さず議事録だけ残す、といった選択肢を最初から示しておくと、話が「やるかやらないか」の二択になりません。
商談・社外会議:法律の前にビジネスマナーの問題として扱う
社外の相手との会議では、就業規則の話は消えて、代わりに相手との関係が前面に出ます。
断られることは、実際にはほとんどない
営業やカスタマーサクセスの現場で商談の録画を運用しているチームに聞くと、断られる頻度は非常に低いという声が多く聞かれます。理由が明確で、使い道が限定されていれば、相手にとって不利益がないからです。
逆に断られやすいのは、目的を言わずに「録画してもいいですか」とだけ聞く場合です。相手は何に使われるか分からないので、判断のしようがありません。
商談冒頭の一言(文例)
口頭ならこれで足ります。
「議事録を正確に残したいので、本日の打ち合わせを録画させていただいてもよろしいでしょうか。社内の記録用にのみ使用し、外部には共有しません」
事前にメールで伝えておくとさらに丁寧です。
◯◯様
お世話になっております。△△です。
当日の内容を正確に記録し、社内で共有するため、打ち合わせを録画させていただければと考えております。録画データは弊社内の記録用としてのみ使用し、社外への共有は行いません。
ご懸念がございましたら、当日その旨お知らせください。録画せずに進行いたします。
「懸念があれば言ってください」まで書いておくと、相手は断りやすくなります。断りやすくしておくことが、結果的に信頼を損なわないやり方です。
断られたときの引き方
素直に引きます。理由を聞き返したり、説得したりしない。
そのうえで、会議終了直後に自分のメモを残す運用に切り替えます。記憶が鮮明なうちの5分で、決定事項と次のアクションだけ書けば、実務上はほぼ足ります。
相手の会社に録音禁止のルールがある場合
金融、医療、官公庁、上場企業の一部などでは、社外との打ち合わせの録音・録画を禁止する社内規程を持っていることがあります。この場合、こちらが適法であっても相手の規程が優先します。
相手が「社内ルールで難しい」と言った時点で、それ以上は踏み込まないのが正解です。
海外拠点・海外の顧客との会議は、日本の常識が通らないことがある
日本語の解説記事がほとんど触れていない論点です。日本の会社であっても、米国拠点の同僚や外資系の顧客とオンライン会議をする機会があるなら、知っておく価値があります。
米国には「全当事者の同意」が必要な州がある
カリフォルニア州刑法632条は、「confidential communications」の録音に全当事者の同意を求めており、電話・ビデオ通話・対面のいずれにも適用されます。さらに Kearney v. Salomon Smith Barney(2006)では、カリフォルニア州の相手との通話について、発信側が一方当事者同意の州にいても同州法が及ぶと判断されました。
実務では「常に全員に伝える」で統一するのが楽
相手がどの州にいるかを毎回確認し、州ごとにルールを変えるのは現実的ではありません。
社内ルールとして「録画する会議では必ず冒頭に告げ、同意を得る」と決めてしまえば、日本国内でも海外でも同じ運用で通せます。判断を減らすことが、そのままリスクを減らすことになります。
録り方によって、相手に説明することの量が変わる
適法性の整理が終わったところで、実務の話をします。同じ「録画する」でも、方式によって相手に説明することの量が変わります。
会議にボットを入れる方式
AI議事録サービスの多くは、会議に専用のボットを参加させて録音します。この方式では、参加者一覧に自社の人間ではない名前が並びます。
相手から「これは何ですか」と聞かれたとき、答えるべきことが増えます。どのサービスか、音声はどこに送られるか、そのサービスはデータをどう扱うか。相手の会社が外部サービスへのデータ送信に厳しい場合、そこで話が止まることもあります。
自分の端末で録画する方式
会議ツールの録画機能でもボットでもなく、自分のPCの画面を録画する方式です。参加者は増えません。説明は「私のPCで録画します」で完結します。データも自分の管理下に置けます。
| ボットを入れる方式 | 自分の端末で録画する方式 | |
|---|---|---|
| 参加者一覧 | 外部サービスの名前が増える | 変わらない |
| 相手への説明 | サービス名・データの送信先・保管方針 | 録画する事実と利用目的 |
| データの保存先 | サービス提供者のサーバー | 自分の端末、または自社で選んだ保存先 |
| ホスト権限 | 会議によっては参加を承認してもらう必要がある | 不要 |
説明の手間という観点で関係するのは次の点です。
- 会議にボットを追加しないので、参加者一覧が変わりません。相手に説明することが「録画します」の一言で済みます
- 録画は無料で時間無制限、透かしも入りません。仮想オーディオの設定も不要です
- 保存先を選べます。無料版はローカル保存のみ、Proプランではクラウド保存も使えます。社内規程で保存場所が決まっている場合に合わせやすい構成です
- AI議事録とNotion連携(Proプラン)。議事録をアクセス権のあるデータベースに直接送れるので、テキストが野放しに広がるのを防げます
料金は録画だけなら無料、AI議事録とNotion連携を含むProプランが月額980円(ローンチ価格)で、初月は無料です。
トラブルは録った瞬間ではなく、共有した瞬間に起きる
録画運用で実際に問題になるのは、録るかどうかより、録ったあとです。
伝えた利用目的の範囲内で使う
「社内の記録用にのみ使用します」と言って録ったものを、事例紹介の資料に使う、採用広報の動画に切り出す、営業研修の教材として他部署に配る。このあたりから話が変わります。
相手が同意したのは、あなたが伝えた目的に対してです。用途を広げたくなったときは、改めて許可を取る。それだけのことですが、忘れられやすいところです。
保存先と共有範囲を先に決める
個人のPCに置きっぱなしにしないでください。担当者が退職したときに誰も開けない、逆に個人の端末から流出する、どちらの事故も起きます。
保存期間を決めて消す
目的が終わったデータを持ち続ける理由はありません。持っているだけリスクになります。
- 録画データ: 議事録の確定後に削除、または3か月で自動削除
- 議事録テキスト: 案件が終了するまで、またはナレッジとして残すものだけ選別して保管
期間を決めていないと、結局全部残ります。運用の最初に決めておくのが一番楽です。
よくある質問
相手に伝えずに録っていた録画を、あとから議事録として共有していいですか
適法性の問題より先に、相手との関係の問題として考えることをおすすめします。伝えずに録ったこと自体が直ちに違法とは限りませんが、共有した先から相手に伝わったときに失うものが大きい。すでに録ってしまったものについては、共有せず自分の記憶の補助にとどめ、次回から冒頭で伝える運用に切り替えるのが穏当です。
社内会議で一部のメンバーだけが反対した場合は
反対の理由を聞いてください。多くの場合、録画そのものではなく「評価に使われるのでは」「発言しにくくなる」という懸念です。人事評価に使わないと明示する、特定の議題は録画を止める、といった調整で解決することがほとんどです。それでも反対が残る場合は、その会議は録画せず議事録だけ残す運用にします。
録画を人事評価に使ってもいいですか
会社として明示的にルール化し、対象者に事前に伝えているなら、直ちに問題とは限りません。ただし「議事録用に録る」と説明したものを後から評価に転用するのは、目的外利用として反発を招きます。評価に使うなら、最初からそう言うべきです。実務的には、評価と切り離して運用するほうが録画そのものが定着します。
対面の会議を録音する場合も同じですか
基本的な考え方は同じです。当事者として参加している会議を録ること自体は原則違法にならず、社内であれば就業規則、社外であれば相手への説明が問題になります。対面の場合は録音していることが相手から見えにくいぶん、口頭で伝えておく重要性はより高くなります。
弁護士に相談すべきなのはどんな場面ですか
紛争が視野に入っている場面(ハラスメント、解雇、取引先とのトラブル)や、業界特有の規制がある場面(金融、医療、個人情報を大量に扱う業務)は、この記事の範囲を超えます。社内規程として録画運用を制度化する際にも、一度リーガルチェックを通しておくと安心です。
まとめ
会議の録画・録音について、押さえるべき点を整理します。
- 当事者として参加している会議を録ること自体は、原則として違法にならない。ただし刑事上の適法性・民事上のリスク・個人情報保護法上の義務・社内規程は、それぞれ別の論点
- 録音の事実を告げる法的義務は課されていない(個人情報保護委員会の見解)。それでも伝えるべき理由は、法律ではなく信頼関係の側にある
- 社内会議は就業規則と施設管理権を先に確認する。個人で始めず、何を録る・誰が録る・どこに保存する・いつ消すの4点をルールにする
- 社外の商談はマナーの問題として扱う。目的と使途を添えて一言で伝え、断られたら引く
- 海外の相手がいるなら全員に伝える運用で統一する。米国には全当事者の同意を要する州が12ある
- トラブルは録った瞬間ではなく共有した瞬間に起きる。保存先・共有範囲・保存期間まで決めて初めて運用になる
不安の正体が「何が問題になるか分からないこと」であれば、この記事の整理で提案の場は乗り切れるはずです。そのうえで、自社の就業規則と、必要なら弁護士への確認を通してください。繰り返しになりますが、この記事は一般的な情報の整理であり、法的な助言ではありません。





