設計レビューの終盤、15分ほど議論して「じゃあそれで」で決まった。その場にいた3人は納得していました。
30秒で分かる要点
対策は3つに分けられます。
| やること | 内容 |
|---|---|
| 残す項目を3つに絞る | 決定 / 前提 / 保留。発言の逐語は書かない |
| 会議は録っておく | 説明側に回ると手が空かない。抽出は会議のあとでできる |
| 重い決定はADRに移す | 後から変更が難しい決定だけ、1決定1ファイルで理由ごと残す |
議事録を全部書こうとするから続かないのであって、3項目なら会議のあと5分で終わります。
消えるのは決定ではなく「却下した案と理由」
決定は覚えている。理由が消える
「認証をトークン方式にした」という結論は、コードを見れば分かります。消えるのはその手前です。
- なぜセッション方式を採らなかったのか
- どんな制約があってその判断になったのか(既存システム、期限、運用体制)
- 誰が何を懸念していたのか
同じ議論を繰り返すコスト
理由が残らないと、一度却下した案が半年後にまた出てきます。制約が共有されていないので、悪気なく再提案されます。そこでまた同じ検討をして、同じ結論に着く。
上流の工程で決めたことの不備が、後の工程で手戻りとして現れるという整理は、IPA/SECのガイドブックなどでも繰り返し指摘されてきました。会議の記録は、その手戻りを減らすための一番安い手段です。書く量を絞れば、コストはほぼゼロになります。
エンジニアの議事録は3行でいい
決定 / 前提 / 保留
会議のあとに残すのは、この3項目だけで足ります。
## 2026-08-31 決済リトライ設計レビュー
### 決定
- リトライは指数バックオフ、最大3回。4回目以降は手動キューへ
### 前提
- 決済APIのレート制限が毎分60(変わったら見直す)
- 障害時の再送は当面SREが手動で回す運用
### 保留
- 手動キューのUIをどこに置くか(次回、9/7のレビューで決める)
「保留」も忘れずに書きます。決まらなかったことは、書かないと消えます。次にいつ決めるのかまで書いておけば、宙に浮きません。
書かないものを決める
議事録が続かない理由は、書く量が多いからです。次のものは書かなくて構いません。
- 発言の逐語(誰がどう言ったかは、決定に影響しない限り不要)
- 議論の経緯の物語(「Aさんが◯◯と提案し、Bさんが〜」)
- 雑談、進捗の共有(チケットやSlackを見れば分かる)
逐語の記録が必要になる場面もありますが、それは録音そのものを残しておけば足ります。テキストに書き起こす必要はありません。
24〜48時間以内に共有する
会議直後から24〜48時間以内に共有すると、参加者の記憶が新しいうちに認識のズレを直せます。この期間を過ぎると、指摘が入らなくなり、間違ったまま確定します。
3項目だけなら、会議が終わった直後に書けます。時間を置くほど書けなくなるので、その日のうちに出してしまうのが結局は楽です。
後から変えにくい決定はADRに移す
ADRとは何か
最小の型はNygard形式と呼ばれるもので、次の項目で構成されます。
| 項目 | 書く内容 |
|---|---|
| タイトル | 決定内容を簡潔に表す |
| ステータス | 提案中 / 承認済み / 廃止 / 代替済み |
| コンテキスト | その決定が必要になった背景と制約条件 |
| 決定 | 何を選んだか |
| 影響 | この決定によって生じるメリット・デメリット |
選択肢の比較まで構造化したい場合は、MADR 4.0系(2024年9月公開)のテンプレートがあります。検討した案を並べて、それぞれの長所と短所を書く形式です。
ADRは個人の工夫ではなく、Microsoft の Azure Well-Architected Framework でも設計の運用プラクティスとして扱われています。チームに導入を提案するとき、この事実は説明の助けになります。
書き換えず、新しいADRで置き換える
一度書いたADRは修正しません。決定が覆ったら、新しいADRを作って古いものを「代替済み(superseded)」にします。
全部の会議で書く必要はない
| 決定の種類 | 残す先 |
|---|---|
| 認証方式、データストアの選定、APIの契約、非同期処理の方式 | ADR |
| ライブラリのバージョン更新、命名の統一、リトライ回数の調整 | 議事録の「決定」欄で十分 |
| その週のタスク分担、レビュー日程 | チケット・カレンダー |
週次の定例で出てくる決定のほとんどは、3行の議事録で足ります。ADRは月に1〜2件あれば多いくらいです。ここを絞らないと、ADRを書くこと自体が形骸化します。
会議中に記録は取れない、という前提から始める
説明する側は手が空かない
画面を共有してコードを見せながら、質問に答えて、ホワイトボードに図を描く。この状態でキーボードに向かって記録を取るのは物理的に無理です。「議事録を取る人を決めましょう」という解決策は、3人のレビューでは1人が議論から抜けることを意味します。
結果として、一番決定が出る会議ほど記録が残らない、という状態になります。
録っておけば、抽出は後からできる
録画には音声だけの記録では落ちる情報が残ります。
- ホワイトボードや図解ツールに描いた図
- 画面共有したコードとその差分
- 再現手順とエラー画面
- 「ここ」「この部分」といった指示語が指していたもの
設計の議論は、言葉だけでは成立しないことが多いです。「この関数を分ける」という発言は、画面が映っていないと後から意味が取れません。
Macでの運用例
- 画面録画・音声録音は無料で時間無制限。ウォーターマークも入りません
- BlackHoleなどの仮想オーディオを設定せずに、自分の声と相手の声の両方が録れます
- Proプランでは、録画からAIが議事録を自動生成します。テンプレートを設定できるので、「決定 / 前提 / 保留」の3項目を出力する形にしておけば、抽出の手間がさらに減ります
- 生成した議事録は、そのままNotionへ送れます
Proプランは初月無料で、クレジットカードの登録も不要です。
一つだけ注意点です。QurecoはmacOS専用で、Windows・Linuxには対応していません。また、会議中にリアルタイムで字幕を出す機能はありません。録画は会議のあとに使うもの、という前提の設計です。
なお、録音するときは会議の冒頭にひと言伝えてください。「あとで議事録を作るので録っておきます」で十分です。社内のレビューで断られることはまずありませんし、伝えておくと共有もスムーズになります。
残す場所を分ける
3項目の議事録とADRは、置き場所を分けたほうが機能します。
| 対象 | 置き場所 | 理由 |
|---|---|---|
| ADR | リポジトリ内(docs/adr/0001-xxx.md など) | コードと一緒にレビューされ、一緒にバージョン管理される |
| 会議の3項目 | Notionなどのドキュメント側 | 開発以外のメンバーも読む。検索して掘り返す用途 |
| 録画そのもの | クラウド(リンクを議事録に貼る) | 容量が大きい。必要な人だけ見に行く |
明日のレビューから始める手順
- 会議の冒頭でひと言伝えて、録画を開始する(「議事録用に録ります」)
- 議論に集中する。記録は取らない
- 終了後、決定・前提・保留の3項目を書く(5分。録画の該当箇所は必要なときだけ見る)
- その日のうちに共有する。参加者から訂正が入ったら直す
- 後から変えにくい決定が含まれていたら、ADRを1本書く(会議記録へのリンクを貼る)
最初の1週間は3と4だけでいいと思います。ADRは、書くべき決定が出てきたときに始めれば間に合います。
よくある質問
録音することを、どう伝えればいいですか
ADRとDesign Docの違いは何ですか
Design Docは、これから作るものの設計を提案・共有するための文書です。ADRは、決まった1つの意思決定とその理由を記録するものです。Design Docの中で検討した結果、重要な決定が出たらADRに切り出す、という関係になります。
議事録は誰が書くべきですか
3項目に絞ると、書く人を固定する必要がなくなります。その回の説明担当が終了後に書くのが、内容の精度としては一番高くなります。持ち回りにするより、録画があることを前提に「気づいた人が書く」ほうが回ります。
AIの要約だけで足りますか
保留事項はどう管理しますか
議事録に書いたあと、期日があるものはチケット化してください。「次回のレビューで決める」だけだと、次回の議題に載らずに消えます。
リモートと対面で運用は変わりますか
Windowsで開発している場合はどうすればいいですか
3項目の議事録とADRの運用はOSに関係なく使えます。録画のツールだけ、Windowsに対応したものを選んでください。
この記事に出てくる用語
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| ADR | Architecture Decision Record。設計上の意思決定と理由を1決定1ファイルで残す軽量な記録 |
| Nygard形式 | ADRの最小テンプレート。タイトル / ステータス / コンテキスト / 決定 / 影響の5項目 |
| MADR | 選択肢の比較まで構造化したADRのテンプレート。4.0系が2024年9月公開 |
| superseded(代替済み) | 古いADRを書き換えず、新しいADRで置き換えたことを示すステータス |
| Design Doc | これから作るものの設計を提案・共有する文書。ADRより広い範囲を扱う |
| 前提 | その決定が成り立つ条件。変わったら決定を見直す対象になる |
| 保留 | その会議で決まらなかったこと。次に決める日まで書いておく |
まとめ
- 会議で消えるのは決定ではなく却下した案と理由。ここが残らないと同じ議論が再発する
- 残す項目は決定 / 前提 / 保留の3つでいい。逐語や経緯は書かない
- 24〜48時間以内に共有すると、認識のズレをその場で直せる
- 後から変更が難しい決定だけADRに移す。書き換えず、新しいADRで置き換える
- 設計レビューでは説明側に回るので手が空かない。録っておいて、あとから3項目だけ抽出するのが現実的
議事録が続かないのは、意志が足りないからではなく、書く量が多すぎるからです。3項目に絞って、残りは録画に預けてしまえば、明日のレビューからでも回り始めます。





