3人目のインタビューが終わったのに、1人目の録画をまだ一度も見返していない。デスクトップには60分の動画ファイルが3つ並んでいて、残り5人分の予定も入っている。
分析に着手できないのは、時間がないからでも、やる気がないからでもありません。録音や録画が「後で聞き直すもの」のまま置かれていて、分析に使える形になっていないからです。
この記事では、ユーザーインタビューの記録を分析工程から逆算して設計する考え方と、Macで録画から文字起こし、発言の切り出し、参加者5〜10人の横断比較までを1台で回す手順を紹介します。次のインタビューから録り方を変えれば、8人分を並べて比べるところまで一直線に進めます。
ユーザーインタビューの記録は、なぜ分析の手前で止まるのか
モデレートしながらメモを取ると、深掘りの質問が出てこない
インタビュー中にメモを取ろうとすると、手が動いている間は相手の話が耳を素通りします。しかも書けるのは自分がその場で理解できた範囲だけです。本当に価値があるのは「意味が分からなかった一言」「話の流れとずれた脱線」なのに、理解できなかった発言ほどメモには残りません。
さらに、メモを取っている間は次の質問を考えられません。ユーザーインタビューの質は深掘りの回数で決まるところがあるので、記録のために深掘りを諦めるのは順序が逆です。
相手が主催するリンクだと、自分の画面に録画ボタンが出ない
既存顧客へのインタビューでは、先方が用意した会議URLに参加する形になることがあります。この場合、多くのWeb会議ツールでは録画の権限がホスト側にあり、ゲストの画面には録画ボタンが出ません。「録画させてください」と頼めば主催者側で録ってもらえますが、そのファイルを受け取るまでに数日かかることもあります。
60分の音源は「後で聞き直す」が実質できない
8人に60分ずつ話を聞けば、音源は8時間になります。1.5倍速で聞いても5時間以上です。聞き直す前提の記録は、人数が増えた瞬間に破綻します。
記録の粒度は「分析で何をするか」から逆算して決める
逐語録(全文)と要約、どちらを残すか
判断の目安はこうです。
- 発言をそのまま引用して社内を説得したい、言い回しから価値観を読み取りたいなら全文
- 事実確認が目的で、誰が何に困っているかを一覧できればよいなら要約
最低限そろえる3つの要素
分析手法ごとに、記録側へ何が要求されるかを整理するとこうなります。
| 分析でやること | 記録側に必要なもの | 揃っていないと起きること |
|---|---|---|
| KJ法・親和図でグルーピング | 発言単位に切り出せる全文 | 要約から付箋を作ることになり、解釈が二重に入る |
| 「質問 × 参加者」で横断比較 | 話者識別、質問ごとの区切り | 誰の発言か分からず表が埋まらない |
| 引用して社内に共有 | 一言一句の全文、タイムスタンプ | 「そんなことは言っていない」の検証ができない |
| 迷いや沈黙を読む | 音声または映像の原本 | 言葉になっていない反応が完全に消える |
同意の取り方と匿名化
録画の前に、目的・保存期間・共有範囲の3点を伝えて同意を取ります。口頭でよいので、録画を開始してから改めて「録画を始めました。差し支えなければこのまま進めます」と確認し、その一言も記録に残るようにしておくと後から辿れます。
伝え方の一例です。
本日の内容は、社内でのサービス改善の検討にのみ使わせていただきます。録画は社内の担当メンバーのみが閲覧し、外部に公開することはありません。差し支えなければ録画させていただいてもよろしいでしょうか。
断られたらその場で録画はしません。手書きのメモと、終了直後の口頭メモで補います。分析用の資料に落とすときは、個人名や社名を「A社・情シス担当」のように置き換えておくと、社内共有のハードルが下がります。
Macでユーザーインタビューを録画する
自分の端末側で画面ごと録るという考え方
ホストの録画機能を借りるのではなく、自分のMacの画面と音声をそのまま録ってしまう方法です。会議ツールの権限に左右されないので、相手主催のZoomでもGoogle MeetでもTeamsでも同じ手順で記録できます。
このとき必要なのは2種類の音です。
- システム音声: 相手の声。スピーカーから出ている音
- マイク: 自分(モデレーター)の声
会議にbotを入れる方式との違い
AI議事録ツールの多くは、会議に専用のbotを参加者として招待する方式です。社内会議なら気になりませんが、相手が顧客のユーザーインタビューでは事情が変わります。参加者リストに知らないアプリ名が並ぶと、それだけで説明の手間が増えますし、相手が身構えることもあります。
録画前に確認する3点
- マイクとシステム音声が両方ONになっているか。片方だけだと、後から取り返しがつきません
- 画面共有される資料が収まる範囲を録っているか。ウィンドウ単位ではなく画面全体で録っておくほうが安全です
- 解像度。表情や画面の文字が読めれば十分なので、720pで足ります。8人分を保存することを考えると、ここでファイルサイズを抑えておくと後が楽です
録画ソフト側でマイクとシステム音声のレベルメーターが見えるようになっていると、開始前の30秒で「両方の音が来ているか」を目視で確認できます。インタビューは録り直しがきかないので、この確認だけは毎回行ってください。
文字起こしから「分析できる状態」に変える3ステップ
ステップ1: 話者つきの全文を作る
まず録画から話者識別つきの文字起こしを作ります。「話者A・話者B」の自動採番でも構いませんが、モデレーターと参加者が区別できることが重要です。質問と回答が混ざった状態では、次の切り出しができません。
このとき、タイムスタンプも一緒に残しておきます。気になる発言を見つけたとき、映像の該当箇所に戻れるかどうかで、分析中の確認コストが変わります。
ステップ2: 発言を1枚1要素に切り出す
全文から切り出すのは、次のような発言です。
- 具体的な行動が語られている部分(「毎週金曜にエクセルにコピペしています」)
- 感情が出ている部分(「あれは本当に面倒で」)
- 想定と違った部分(こちらが機能Aの話をしているのに、相手は別の使い方をしていた)
ここでAIの要約をそのまま付箋にしないでください。要約は話の主旋律を残しますが、分析で効くのはむしろ主旋律から外れた発言です。同記事も、好意的な発言に偏らないこと、都合の悪い発言を切り捨てないことを分析の前提として挙げています。AIには「切り出しの下書き」を作らせて、原本と突き合わせながら採否を決めるのが安全です。
ステップ3: グルーピングして解釈する
時系列が重要なテーマ(オンボーディング、解約に至る流れなど)では、プロセスマップに並べ直すほうが有効です。どちらの手法を使うにせよ、入力になるのは切り出された発言カードで、その元になるのが話者つきの全文です。
参加者5〜10人を横断で比較する器をNotionに作る
「質問 × 参加者」のマトリクスを作る
1人分の分析ができても、5人分を並べないと「その人だけの話」なのか「共通の課題」なのかが判断できません。前掲の議事録総合研究所の記事では、「質問 × 参加者」の形に一覧化してフィルタや並べ替えで多角的に見る方法が紹介されています。
これはNotionのデータベースでそのまま再現できます。参加者を行、質問やテーマを列に見立て、発言をリンクで紐づけていく形です。
データベースに持たせるプロパティ例
| プロパティ | 型 | 用途 |
|---|---|---|
| 参加者ID | テキスト | P01、P02のように匿名化して管理 |
| セグメント | セレクト | 業種、規模、利用歴。傾向差を見る軸になる |
| 実施日 | 日付 | 時期による変化を追う |
| テーマ | マルチセレクト | 価格、導入、運用など。列にあたる |
| 発言(引用) | テキスト | 全文から切り出した一言 |
| 解釈 | テキスト | その発言から読み取ったこと。事実と分けて書く |
| 録画リンク | URL | 原本の該当箇所へ戻るため |
引用と解釈を別のプロパティに分けておくのが要点です。混ぜて書くと、後から読んだ人が「これは本人が言ったことなのか、担当者の推測なのか」を判別できなくなります。
原本へ戻れる状態にしておく
Qurecoならインタビューの記録から議事録・Notionまで1台で回せる
ここまでの手順は、録画・文字起こし・議事録生成・Notion整理を別々のツールで組んでも実現できます。ただ、インタビューのたびにファイルを書き出して別サービスへアップロードする工程が入ると、5人目あたりで止まります。
ユーザーインタビューの文脈では、次の点が噛み合います。
| インタビューでの課題 | Qurecoでの解決 |
|---|---|
| 相手主催のリンクで録画ボタンが出ない | 自分のMacの画面ごと録画するのでホスト権限に依存しない |
| 相手の声と自分の声を両方録りたい | システム音声とマイクを同時にキャプチャ。仮想オーディオの設定は不要 |
| 誰の発言か分からない | AI議事録が話者を識別 |
| 顧客の会議にbotを入れたくない | 参加者は増えない。自分の端末だけで完結する |
| 参加者ごとの記録が散らばる | 議事録をNotionのデータベースへ送って横断で管理 |
画面録画と音声録音は無料のまま時間制限なし、ウォーターマークもなしで使えます。AI議事録の自動生成とNotion連携はProプラン(月額980円のローンチ価格)の機能で、初月はクレジットカード登録なしで試せます。8人分のインタビューを1シーズンだけ回してみて判断する、という使い方もできます。
よくある質問
会議室で対面インタビューを行う場合は、Macのマイクで室内の音声を録る形になります。参加者が3人以上いる場合や、テーブルが大きい場合は、Mac内蔵マイクだと遠い人の声が拾いにくくなります。外付けの集音マイクを併用すると安定します。
分析目的であれば、清書は不要です。「えー」「あの」といったフィラーが残っていても、切り出しと検索には支障ありません。清書が必要になるのは、記事や事例インタビューとして外部に公開する場合だけです。
まとめ
ユーザーインタビューの分析が進まないとき、原因はたいてい分析手法ではなく記録の設計にあります。
- 記録は「後で聞き直すため」ではなく「発言を切り出して並べるため」に取る
- 逐語録・話者識別・タイムスタンプの3点が揃っていると、後工程の選択肢が広がる
- 相手主催のオンラインインタビューは、自分のMac側で画面ごと録れば権限に左右されない
- 5人以上の比較は、参加者を行・テーマを列にした器(Notionのデータベース)を先に作っておく
- 引用と解釈は必ず分けて書き、録画の原本へ戻れる状態を保つ
次のインタビューが入っているなら、まず録り方だけを変えてみてください。話者つきの全文が手元にあるだけで、分析の着手がぐっと軽くなります。





