90分の取材音源を全文起こしても、原稿に残るのは2割以下です。
残りの8割は、相槌と言い直しと、記事にはならない前置きです。そこを含めて起こしているから、音源から初稿に入るまでに半日かかります。
この記事では、音源から取り出すのは3点だけという前提で、その3点の取り出し方と、そのための録り方を書きます。オンライン取材と対面取材で録り方を変える話、オフレコの扱い、音源をいつ消すかまで含めます。
(取材して記事を書く人に向けた記事です。全文の反訳そのものが成果物になる仕事、たとえば裁判記録や学術研究のトランスクリプトには、この進め方は合いません)
取材音源には3つの出番がある
全文起こしをやめる前に、音源を何に使っているかを分けます。使い道によって必要な精度が違うからです。
| 出番 | いつ | 必要な精度 |
|---|---|---|
| 執筆中に探す | 初稿を書いている最中 | どこで何を話したかが分かれば十分 |
| 引用の確認 | 入稿前 | 一字一句。ここだけは正確さが要る |
| 事実の確認 | 入稿前・校正時 | 数字、固有名詞、日付。聞き間違いが事故になる |
全文起こしをやめる|取り出すのは3点だけ
① 見出し:話題が変わったところにタイムコードを打つ
取材中、もしくは聞き直しの1回目に、話題の切り替わりだけメモします。
0:00 自己紹介・経歴
4:30 創業のきっかけ(前職の話から)
13:10 最初の製品がうまくいかなかった時期 ★
24:05 現在の組織の話
38:40 今後の展開
52:00 読者へのメッセージ
これだけで、音源が目次つきになります。初稿を書いている最中に「あの話どこだっけ」と探す時間が消えます。
② 引用候補:ここだけ一字一句で起こす
地の文は自分の言葉で書きます。カギカッコに入れる発言だけ、正確に起こします。
③ 事実:数字、固有名詞、日付だけ別に書き出す
ここは聞き間違いが記事の事故に直結します。別のメモにまとめます。
・創業 2019年4月(2018年ではない、要確認)
・初期メンバー 3名
・現在の社員数 48名
・前職:株式会社◯◯(表記ゆれ注意、「◯◯」が正式名称)
・資金調達 シリーズA 2022年11月
やらないこと
- 相槌(「はい」「なるほど」「そうですね」)の反訳
- 言い直しの再現
- 雑談と世間話の起こし
- 自分の質問の全文起こし
質問は、記事の構成が一問一答形式でないなら、要点だけで足ります。
オンライン取材と対面取材で録り方を変える
| オンライン取材 | 対面取材 | |
|---|---|---|
| 録るもの | 画面と音声の両方 | 音声のみ |
| 使うもの | Macの画面録画 | Macの音声録音、またはICレコーダー |
| 得られる追加情報 | 表情、共有資料、画面に出た固有名詞 | 保険として環境音も残る |
| 注意 | 相手の通知が映り込むことがある | 机の中央に置く。資料をめくる音を拾う |
オンライン取材は画面ごと録る
音声だけでなく画面も録ると、情報が増えます。
対面取材は端末を1つに絞る
机の中央に置き、相手との間に資料や花瓶を挟まないようにします。喫茶店での取材なら、スピーカーの真下と入口付近は避けます。
取材の録音・録画に QurecoMac用の録画アプリで、録画時間の無制限・ウォーターマークなし・音声のみ録音モードを無料の範囲で満たします。オンライン取材は画面ごと、対面取材は音声のみで、同じアプリに音源が貯まります。
録音の許可とオフレコの扱い
冒頭の一言
依頼の段階で録音することを伝えておき、取材の冒頭でもう一度確認します。目的から言うと通りやすいです。
「記事の正確さのために録音させてください。原稿を書くためだけに使って、音源そのものを外に出すことはありません」
「資料を共有いただく場合、画面も一緒に録らせてください。数字の確認に使います」
オフレコが出たときの印のつけ方
【オフレコ】34:20 〜 39:05
やってはいけないのは、オフレコ部分を文字起こししてメモに残したまま進めることです。整文した原稿データに混ざり、後の工程で誰かが使ってしまう経路ができます。
「どこまでがオフレコか」が曖昧なときは、その場で確認します。「今のお話は、全部ですか、それとも会社名を伏せれば大丈夫ですか」と聞けば、たいてい線が引けます。
録音を断られたとき
音源の置き場所と、いつ消すか
案件単位で1か所にまとめる
rec_20261010.mp4 が溜まっていくと、半年後に探せません。案件ごとに紐づけます。| 案件 | 取材日 | 相手 | 音源 | オフレコ区間 | 削除予定 |
|---|---|---|---|---|---|
| ◯◯社 導入事例 | 2026-10-10 | 広報 高橋様 | リンク | 34:20-39:05 | 2027-01 |
| 連載#3 | 2026-09-28 | 研究者 林様 | リンク | なし | 2026-12 |
保管期間を先に決める
納品後の問い合わせは、だいたい公開から1〜2か月の間に来ます。そこを過ぎたら持っている理由はほとんどありません。
自分でやる・AIに任せる・外注するの判断
| コスト | 納期 | 向く場面 | |
|---|---|---|---|
| 自分で全文起こす | 時間のみ(90分音源で4〜6時間) | 即日 | 短い音源、機密性が特に高い案件 |
| AIに起こさせて自分で整える | ツールの月額 | 数分〜数十分 | ほとんどの取材。業界の標準的な進め方 |
| 外注する | 1分あたり100〜300円。60分で平均1万3,000円ほど | 2〜3日 | 複数話者の座談会、音質が悪い音源 |
取材の録音・録画に向く道具の条件
| 条件 | なぜ効くか |
|---|---|
| 録画時間の制限がない | 取材は90分を超えることがあります。無料アプリは5分や30分で切れるものがあります |
| 音声のみで録れるモードがある | 対面取材では画面が不要です。ファイルも軽くなります |
| ウォーターマークが入らない | 共有画面の数字に透かしが重なると読み取れません |
| 音源が一覧で管理できる | 案件が並行すると、ファイル名だけでは追えなくなります |
| 保存先を選べる | 相手の声が入ったデータです。どこに置くかを自分で決められる必要があります |
- 録画時間は無制限、ウォーターマークなし。MP4 / MP3で書き出せます
- 音声のみ録画モードがあり、対面取材では画面なしで録れます
- 仮想オーディオの設定が不要で、マイクとシステム音声を個別にオンオフできます
- 録画ライブラリで一覧・再生・タイトル編集ができ、保存先フォルダも変更できます
Proプラン(月額980円)では録画からAIが議事録を生成し、話者識別も効きます。見出しの切り分けの下書きとして使うと、タイムコードを打つ作業が短くなります。Notionへの連携もそのまま行えます。
よくある質問
音源が残っていれば戻れます。怖いのは「どこに戻ればいいか分からない」状態なので、見出しのタイムコードを打つところだけは省かないでください。これがあれば、気になった瞬間に該当箇所へ飛べます。
対面取材で1本のマイクに2人の声が入ると、精度が落ちます。改善したい場合は、取材の冒頭で2人がそれぞれ少し長めに話す時間を作ると、識別の手がかりが増えます。オンライン取材なら、もともと分離しやすい条件です。
音声だけで原稿は書けます。録画が効くのは、画面共有がある取材と、表情を描写したい記事です。導入事例やインタビュー記事で「少し考えてから」のような描写を入れるなら、映像があると書けます。不要なら音声のみモードで録ってください。
まとめ
- 取材音源の出番は3つ。執筆中に探す、引用を確認する、事実を確認する。 全文の精度が要るのは2番目だけ
- 取り出すのは3点。見出しのタイムコード、引用候補(ここだけ一字一句)、数字と固有名詞
- 相槌・言い直し・雑談は起こさない。起こす対象は合計3分程度に収まる
- オンライン取材は画面ごと録る。画面に出た数字と固有名詞がそのまま残る
- 対面取材は音声のみ、端末は1つ。会議に参加するタイプのAI議事録ツールは対面では使えない
- オフレコは始まりと終わりのタイムコードで印をつける。文字起こしに混ぜない
- 音源は案件単位で1か所にまとめ、納品から3か月で消すルールを先に決めておく
次の取材で、見出しのタイムコードを打つところだけ試してみてください。それだけで、初稿に入るまでの時間が変わります。





